2025.12.25
清水塾 糖尿病の急性増悪を契機に診断された膵癌
糖尿病の急性増悪を契機に診断された膵癌
本症例は、比較的安定していた糖尿病がわずか3ヶ月の間に急激に悪化したことにより、膵癌が発見されたケースです。日常診療において見過ごされがちな血糖値の変動が、いかに重要な診断の手がかりとなり得るか、臨床的に極めて示唆に富む症例です。

75歳 男性、1ヶ月前からの倦怠感あり、直近3ヶ月でHbA1c が6.6%から12.8%
体重が78kgから73kgへ5kg減少
既往歴:2007年2型糖尿病、高脂血症、2020年膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の分枝型と診断
この「糖尿病の急な悪化」という典型的な警告サインを起点として、「よくある症状の裏に潜む事実」を突き止めるための鑑別診断と精密検査を実施しました。
診断に至る経緯と検査所見
診断プロセスにおいては、考えられる原因を網羅的にリストアップし、客観的な検査データを基に可能性を絞り込んでいく思考過程が不可欠です。本症例では、血液検査と画像検査が決定的な役割を果たしました。
1.血液検査の結果
〇HbA1c:12.8%
〇随時血糖値:405 mg/dL
〇C-ペプチド:1.74 ng/mL (インスリン分泌能の低下を示唆)
〇抗GAD抗体:陰性 (1型糖尿病の可能性は低い)
〇腫瘍マーカー:CA19-9、CEA ともに陽性
2.画像所見(造影CT)(2年前の画像と比較)
〇新規腫瘤:膵体部に、造影効果の低い低吸収域の腫瘤性病変が新たに出現
〇膵管・周囲血管への浸潤
腫瘤より尾側の主膵管が著明に拡張
腫瘤は門脈に対し180度以上接触しており、血管への浸潤が強く疑われた
十二指腸への広がりも疑われた
これらの所見は、外科的切除の分類において「切除可能境界」よりも厳しい、切除不能の可能性を示唆する
〇既存IPMNの悪性転化:経過観察中であったIPMNにも、内部に複数の壁在結節が新たに出現しており、通常型の膵癌とは別に、IPMN自体の悪性化が併存している可能性を示唆
これらの血液検査および画像所見を総合的に判断し、『膵癌』の診断が確定しました。
治療を立案する上で腫瘍そのものへのアプローチだけでなく、全身状態や併存疾患の管理についても多角的に検討する必要があります。
本症例では特に、急激に悪化した糖尿病の管理と癌の進行度評価を中心に行います。
1:糖尿病治療薬の選択
Q:血糖コントロールのため、SU剤のようなインスリン分泌を促進する経口薬は有効か?
A:本症例は膵癌によるβ細胞の物理的な破壊によって、インスリンそのものが枯渇している状態と推測された。そのため、インスリン分泌を刺激する薬剤(SU剤など)を投与しても効果は期待できず、体外からのインスリン補充療法が唯一の選択肢である
2:画像所見の解釈
2年前のCT画像と比較して膵臓全体が腫脹して見える点について、腫瘍の直接的な影響に加え、膵管閉塞による二次的な膵炎が合併している可能性が考えられる。その場合リパーゼ値が上昇しているが本症例ではリパーゼは未測定であった。膵体部の低吸収域に見える部分は、腫瘍そのものとそれによって拡張した膵管が混在している
3:癌の由来
Q:この癌は、既存のIPMNが悪性化したものか、それとは無関係に発生した通常型膵癌か?
A:画像所見からは、通常型膵癌とIPMNの悪性化の両方が併存している可能性が最も高いと判断される
本症例を通じ、高齢者における糖尿病の急激な悪化は、膵癌をはじめとする重篤な基礎疾患の重要なサインであり、速やかな精密検査へ繋げるべきであるという臨床的教訓が再確認されました。
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