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2022.11.21

清水塾vol.8 肺炎を繰り返す症例 日和見感染症への対応

84歳の男性。2型糖尿病の治療中。

 

以前から気道感染症を繰り返している。複数の病院への頻回の入院歴がある。

5年前には副鼻腔気管支症候群と診断された。当院には半年前に肺炎で1ヶ月半入院した。退院して2週間後に再び肺炎が悪化して再入院した。

 

 

主な検査結果:白血球128.1×102/μL, ヘモグロビン8.8g/dL, ヘマトクリット26.2, 好中球81.5, 総蛋白8.8g/dL, アルブミン2.7g/dL, ナトリウム125mEq/L, カリウム4.3mEq/L, CRP 18.59mg/dL, HbA1c7.1%

 

 

 

 

解説

この症例では基礎疾患に糖尿病があり、肺炎を何度も繰り返している。

このような場合は宿主の免疫能が低下していることを示している。起炎菌は緑膿菌だった。 

 

 

糖尿病があると感染症に罹患し易い理由

 

コントロール不良の糖尿病や短期間の高血糖状態では好中球の走化性や貪食能、殺菌作用を低下させて宿主感染防衛機能を低下します。この症例のHbA1c7.1%で、コントロール不良とは断言しにくい値ですが、過去にはさらに悪い時期があったことが考えられます。

 

 

 

緑膿菌の特徴

緑膿菌は大腸菌と同じくグラム陰性桿菌で、健常人には病原性を示さない。しかし、エンドトキシンを産生するために、何らかの原因で血液中に侵入し、菌血症や敗血症を起こすと、エンドトキシンショックを起こす。緑膿菌は大腸菌と比べると抗菌薬が菌体内に侵入する効率が低く、抗菌薬の能動排出ポンプがあるために、より耐性を獲得しやすい。また、この患者の緑膿菌はムコイド型で、菌周囲のムコイド物質で、抗菌薬がさらに届きにくい。

 

 

 

前回入院時の喀痰培養の結果を下に示す。

培養同定

  • Pseudomonas aeruginosa
  • Klebsiella pneumoniae
  • Candida albicans
  • Normal flora

 

 

 

1Pseudomonas aeruginosaの感受性試験の結果

ABPC R32, CFDN R4, CEZ R32, CTM R32, CMZ R64, MEPM S1, SBT/ABPC S32, TAZ/PIPC S16, SBT/CPZ S16, GM S4, AMK S16,CAM R8, AZM R4, CLDM R4, MINO R=2, ST R76/4, LVFX S=2, PZFX S, STFX S, FOM R32, LZD R

 

 

 

薬剤感受性検査の読み方と抗菌薬選択時の3つの注意点

  • 結果は感受性(S)、耐性(R)、その中間(I)に分類される。Sの中で最も狭域の薬剤を選択。
  • MIC値を薬剤間で比較する意味はない。
  • in vitroSと判定されてもin vivoでは有効でない場合もある。

この症例では、緑膿菌を多剤耐性に移行させないように、TAZ/PIPC(ゾシン)を選択した。

 

 

 

抗菌薬の用法・用量の基礎知識

βラクタム剤の効果は、時間依存性です。治療効果を上げるにはMICを超えている時間を長くすることが必要であり、投与量よりも投与回数を増やすことが重要です。肺炎の場合は、ゾシンでは14.5g14回投与が認められています。

一方、アミノグリコシド系薬剤の効果は濃度依存性です。この場合はCmaxが十分高いことが求められます。治療効果を上げるには、投与回数ではなく1回投与量を増やすことが重要です。

 

 

参考文献:

総説 糖尿病患者の好中球機能異常 斧康雄 日本化学療法学会雑誌 Vol.64, No.5:735-741, 2016

薬剤耐性緑膿菌感染症とは 国立感染症研究所細菌血液製剤部 荒川 宜親

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/2373-dr-pa-intro.html

4感受性検査の結果をどう解釈するか 細川直登 実践的抗菌薬の選び方・使い方 医学書院 pp20-23, 2014

抗菌薬をマスターする〜適切な選び方・使い方〜用法・容量設定の基本(前編)山本雅人https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/cadetto/practice/13antibiotic/201501/540267.html